10月は3R推進月間。Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)を テーマに、個人や企業が環境対策への意識を高める月となっています。そこで、「のーぷら No Plastic Japan」代表であり、J-WAVE「STEP ONE」ナビゲーターも務めるノイハウス萌菜さんと、NPO法人「530(ゴミゼロ)」代表の中村元気さんをお招きし、The POW BAR代表のスコットめぐみを交えて、プラスチック問題や環境への取り組み、そして未来のことについてお話を伺いました。
※インタビュー内では敬称略で表記しています。
--- みなさんの活動について簡単に教えてください。
ノイハウス萌菜(以下、萌菜):私は2016年にイギリスから日本に引っ越してきてからヨーロッパとのごみの扱い方の違い、特にプラスチックごみや使い捨て文化に問題を感じ、2018年にプラスチックストローの代替品となるステンレスストローブランド「のーぷら No Plastic Japan」を立ち上げました。現在は、無理なく日常に取り入れられる環境保護活動やそれに繋がる行動を提案し、さまざまなメディアで発信しています。
中村元気(以下、元気):僕は「530」というNPO法人で活動していて、ゼロウェイスト社会を目指しています。おもにプラスチック問題に注目してから活動を始め、5月30日に「ごみゼロの日」としてイベントを開催し、意識啓発を行っています。また、現在は食品ロスになりがちなパンの耳を使ったクラフトビール「bread(ブレッド)」のアップサイクルプロジェクトも手掛け、食と環境保護に関する取り組みも行っています。
スコットめぐみ(以下、めぐみ):私は「POW BAR」というエバジーバーのブランドを通して「プラスチックネガティブ認証」を取得し、その生産過程で使用されるプラスチックの何倍もの量を自然界から回収して適切にリサイクルする活動をサポートしています。企業や消費者も、環境活動について考え行動できるようになってほしいという想いから、今自分たちができることから取り組んでいます。
--- 日常生活でどのようにプラスチックやリサイクルに気をつけているかお聞かせください。
萌菜:私は買い物の際にプラスチックのバッグをもらわないようにしていますし、カフェではマイカップを持参して、できるだけプラスチックカップを使わないようにしています。やはり日常の小さなことの積み重ねが大切だと思いますね。あとは、なるべく紙ベースのものを選ぶように心がけています。もちろん紙が必ずしも環境に最善とは言えませんが、それでも意識して、環境に配慮したものを選ぶようにしています。
めぐみ:たしかに、選べる選択肢がある時はできるだけよいものを選びたいですよね。
萌菜:そうですね。たとえば、プラスチックの代わりに環境に配慮した選択肢があれば、たとえ値段が高くても未来への投資としてお金を払う価値があると思うんです。野菜でも、栽培方法や環境への配慮があるものを優先したいです。最近「Loop(ループ)」というリサイクルシステムを初めて使ったんですが、使い終わった容器を返すと半永久的にリユースされる仕組みなんです。金額としては普通に買い物するよりも割高でしたが、このような取り組みを応援したくて購入しました。
元気:僕もプラスチックはなるべくもらわないようにしています。でも、最近気づいたことがあって。近所のコーヒー屋さんのサブスクリプションに入ってるんですが、マイボトルを持っていっても、アプリで事前にオーダーすると、カップで作られちゃうんですよね。
萌菜:私も同じ経験があります!その場でボトルに入れてもらおうとしても、すでにカップで作られていると意味がなくなっちゃいますよね。
元気:そうなんです。「もう少し待ってくれたら、マイボトルに注いでもらえたのに」って思うんです。無駄を減らす工夫、もっとできるはずなんですけどね。
めぐみ:たしかに、時間短縮を優先するとそういう問題も出てきますよね。パウバーはカフェも経営していますが、マイカップ持参で割引をしていて、プラスチックストローの代わりにチタンや竹のストローを使っています。海外のお客様も多く意識が違うのか、マイカップの持参率も高いんです。こうした小さな取り組みを続けることが大事なのかなと思っています。
元気:そういえば、最近よく行くカフェで「紙カップを使うなら+50円」ってシステムを見かけたんですが、実際に紙カップを使ったときに50円プラスされて「損したな」ってすごく悔しく感じたことがあって。それで「次回は絶対マイカップ持ってこよう」って思いました。得をするよりも、損したくない気持ちのほうが強く働くんですよね。このシステム、すごく効果的だなと思いました。
めぐみ:それ、いいですね!今度うちのカフェでも提案してみようかな。
--- 皆さんお子さんがいらっしゃいますが、子育ての視点からプラスチックやリサイクルについてなにかお考えでしょうか。
萌菜:子供が生まれてからは、以前ほどストイックにはなれなくなりましたね。日々プラスチックを使わないようにすごく気をつけて、できるだけ使い捨てを避けていました。でも子育てが始まって時間の余裕がなくなると、そういう意識も少し緩くなってしまいました。たとえば、オムツのごみや個包装のお菓子のパッケージとか、避けにくい課題が増えてしまって。毎日それが当たり前になってくると、自分を責めても仕方ないなって思うようになったんです。
のーぷら No Plastic Japanをはじめた当時は、個人レベルでエコな選択をすることや、環境に配慮したお店を紹介することがメインだったのですが、どこかで壁にぶつかることが多くなって「これ以上徹底するのは無理だな」と気づいたんです。社会の仕組みもあるし、全体を自分だけで変えるのは難しい。だから、今ではもっと企業や社会、政治が変わることに目を向けるようになりましたね。
元気:僕も萌菜さんと似たようなマインドを持ってたんですよ。最初はすごく厳格で、発信も関心も環境問題のことばかりだったんですが、それが周りにプレッシャーをかけていたのかもしれません。自分の矛盾にも気づきながらも、無理をしていた部分があったんです。
活動を続けていく中で、「できること」「無理をしてでもやること」、そして「どうしてもできないこと」があるってことに気づいてからは少しずつ柔軟になってきました。できることをやらないのは、自分が発信している以上よくないと思っていて、そこはしっかりやろうとしています。それでもできない部分は「仕方ない」と思えるようにもなりました。
めぐみ:私も萌菜さんと同じことを考えていました。子供がいるとどうしても避けられないごみは出ますよね。布おむつに切り替えることも考えたんですが、働いていると手洗いの時間もないし、現実的には難しいなと感じることが多くて。どこで線を引くかは本当に難しい。
できるところではエコな選択をして、できない部分は「仕方ない」と割り切るようにしています。でも、できる部分ではやっぱり環境に配慮した選択をしたいんです。たとえば、うちは子供のおもちゃに関しては、夫と話し合ってできるだけプラスチック製のものは買わないようにしようと決めています。理由はただ環境のためだけじゃなく、子供にはあまりプラスチックに触れさせたくないという気持ちもあって。マイクロプラスチックの影響なども考えると、できるだけ自然素材のおもちゃを選びたいなと。
萌菜:わかります。でも実際避けられない部分がでてくるとつい考えてしまいますよね。
めぐみ:そうなんです。おむつとか、どうしても出てしまうごみについては避けられないので、そこに矛盾は感じています。でも完璧を目指すのは難しいと気づいたので、その中で自分が大切だと思うポイントを見つけて、これは選ぶ、これは諦めるというように考えることにしています。特に子育てでは、自分を必要以上に追い込まないためにもそんな考え方が大切なのかなと感じますね。
元気:本当にそうですね。「できること」「できないこと」を自分なりに理解して、それに対応していくということが、どんどん自分の中で変わってきたと僕も感じます。
--- お子さんにプラスチック問題のことなどを話したりしていますか?
めぐみ:実はまさに今そのことについて悩んでいて、ぜひ萌菜さんと元気さんの考えを聞きたいと思ってました!
萌菜:みんな悩むことですよね、きっと。うちでは最近少し話すようになりました。どちらかというと、プラスチックそのものより気候変動について話すことが多いかもしれません。すごく暑い日があって、それをきっかけに「なんでこんなに暑いのかっていうと、ごみがたくさん出てるからなんだよ」と説明したんです。ごみを処理するのに火力を使うから、それが原因で暑くなっているという感じで子供にもわかりやすく話したんです。
めぐみ:なるほど、実感できる環境問題をきっかけに子供たちと話すんですね。
萌菜:そうですね。それ以来、娘も少しずつ「使えるものは捨てない」とか「いらないものは買わない」といったことを意識し始めたみたいです。まだ4歳なので自分で決めることは少ないですが、私が普段の生活の中で考えをシェアすることで、少しずつ影響を受けてくれるといいなと思ってます。最近ではなにか買い物をねだられても「これは家に同じものがあるから買いたくないんだ」と言えば、わりとスムーズに通じます。
めぐみ:元気さんはどうですか?お子さんと環境問題について話していますか?
元気:うーん、難しいですね。どう伝えればいいか、どこまで話すべきか悩むことが多いです。教育として説明するというよりも、もっと基本的な「ごみを出さないようにしよう」という話をすることが多いかもしれません。あまり細かいことは言わないのですが、「ごみをなくそう」というよりも「ごみを拾おう」という方に焦点を当てています。実際に家族でごみ拾いをしたりもしていますよ。
めぐみ:実際にアクションを通して教えるという感じですね!
元気:そうですね。「ごみを出さない方がいいよね」という考え方を自然に伝えたいと思っていて。完璧にはいきませんが、生活必需品については「使い続ける大切さ」を伝えることも大事かなと。プラスチック製品だってしっかり使えば長持ちしますし、安全面でもメリットがあります。僕の家には、何年も使っているプラスチック製のコップや食器がありますし、壊れたらリサイクルすればいい。使えるものは大事に使い続けようということはしっかり伝えたいと思っています。
--- 私たちの生活からプラスチックを完全に無くすことはとても難しいと思いますが、これから先、プラスチックどうと向き合っていくことが大切だとお考えでしょうか?
萌菜:もっと物作りに対するルールが必要だと思います。今の社会では、どんな素材でも無制限に作れる状況ですよね。だからこそ、物作りをする人たちには環境に悪影響を与えないための基準が必要だと思います。
元気:僕も「ものの本来の寿命」と「心理的な寿命」について考えなくてはいけないと思っています。特に衣服が分かりやすい例ですが、飽きたらすぐ新しいものに変えちゃうということがよくありますよね。その結果、多くのものが寿命を全うせず、使われなくなるんです。リサイクル技術がどれだけ進歩しても、リサイクルに回す物が多すぎる問題が残ってしまいます。だから、消費のスピードをもっと緩める必要があるのかなと思っています。適量で生産・消費することが、より健全な状態につながるんじゃないかな。
萌菜:たしかに、適量の消費は重要ですね。
元気:たとえば、昔の日本ではお肉も少量しか食べられていませんでした。それが今では大量に消費されるようになって、増えすぎた動物性食材が温室効果ガスの排出やたくさんの環境問題にもなっている。野菜もしっかりバランスよく食べることが大事というように、消費全体をもっと慎重に考えていくべきですね。
めぐみ:プラスチック製品でも同じですよね。どうやって長く使うかということも考える必要があるのではないでしょうか。
元気:まさにその通りだと思います。マイバッグやマイボトルの話も同じで、飽きたから新しいものを買うのではなくて、一つのものと長く付き合うことが大切なのかなと。リサイクルの技術や考え方はもちろん大事ですが、ものが増え続けている限り、リサイクルする量も増える。それでは解決にはならない。だからこそ、適量を守ることが重要で、それをしないとリサイクルも追いつかないと感じますね。
めぐみ:食品事業では包装でフィルムを使うことが多いのですが、フィルムって一見透明でも実は何層にもなっていることが多いんです。ほとんどのプラスチックフィルムはリサイクルできず、燃やすしかないと聞いたときは本当に驚きました。そしてその事実を知らない人がたくさんいることにも気がつきました。
明るい未来を考えるのであれば、教育もとても大事だと思っています。次の世代の子供たちが育つ過程で、今のごみの現状や食の問題をもっと知ることが必要なのかなと。それが未来を変えるきっかけになるのではないでしょうか。現状の問題をしっかりと知り「これはよくないね、変えなきゃいけないよね」と考え行動する人が増えれば、それが当たり前になる日が来ると思います。教育の場でも、もっとこういった問題が議論されて、教えられる環境が整えば、日本だけでなく世界全体が変わっていくのではないかなと思っています。
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今回の対談では、無理なく日常に取り入れられる環境活動の重要性、そして「自分ができる範囲で続ける」というアプローチが共通の意見となりました。つねに完璧を目指すのではなく、環境に良い小さな選択をできる限り積み重ねることできっと未来に大きな影響を与えられるはず。マイカップを持ち歩いたり、リサイクルシステムを利用するなど、すぐに実践できることは多くあります。個人の取り組みとともに、物作りのルールや消費の見直しなど企業や社会全体の変化も必要ですが、私たち一人ひとりが日々できることを続けることが、未来をより良いものにするための確かな一歩となるのではないでしょうか。